The Cat's Pajamas

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読みやすい(現代)美術史の入門書を探して

 今回は、去年読んだ美術史の入門書に関する備忘録をまとめました。その中で、特に読みやかった三冊をピックアップしたいと思います。

1、爆笑問題のニッポンの教養シリーズ

まずは、一番読みやすそうな本から入ろうと思って選んだ一冊。爆笑問題の日本の教養シリーズ・美学編です。知識が浅い分、佐々木さんの解説にいちいちなるほど、と感心しながら読むことがでした。とても薄い本なので、30分くらいで読めます。

オフィシャルな芸術とプライベートな芸術

私が個人的に面白いなと感じた解説は、芸術には大きく分けて、オフィシャルな芸術とプライベートな芸術があるという説明です。オフィシャルな芸術とは、西洋独特の宗教的な世界観を認識するためであったり、その当時の王様の権威を示すためのものを指します。一方、プライベートな芸術は、ルネサンス以降の個人主義の発達や、北方ルネサンスにおける特徴から確認できます。確かに西洋絵画の特色をうまく語るためのワードだなと感じました。

”アート”という言葉について

佐々木さんいわく、古代からartsという複数形の単語は存在したが、単数形のartは存在していなかったそうです。何故なら当時、複数形のartsは一つの芸術や学問を意味するだけでなくさまざまな分野における技術、技能、手腕やコツといった意味を担っていたからです。たとえば医者のアーツなら医学、リベラルなアーツなら教養、大工のアーツなら技能という具合にです。よってアーツという単語は、それがどの技能であるかを示すための形容詞をつけないと領域を確定することはできませんでした。

また当時のアーツには、その種類によって格差が存在します。その格差の中では、頭を使う仕事は”上”、手を使う仕事は”下”(つまり汚れ仕事)と位置づけられていました。だから当時、画家というのは身分の低い職業だったんです。その後、アートという単数形が生まれるのは十八世紀半ばを過ぎたころになります。その前段階として使用された言葉がファイン・アート(fine art) でした。「より立派なアート」というと聞こえがいいですが、「ましなアート」というニュアンスです。ここからfinを省略されるようになったのが、現在われわれが使っているアートになります。

まとめ

入門の中の入門という感じの本ですので、美術に詳しい方には物足りないと思います。個人的にはこの爆笑問題のニッポンの教養シリーズは、どれも暇つぶしに最適でお勧めです。

2、現代アート、超入門!

美術史ではありません。しかしAmazonの評価を確認し、ぜひ読んでみたいと思っていた一冊がこの本でした。

 念を押しておきますが、これは入門書ではありません。超入門書でした。めちゃくちゃ解りやすいということを売りにした本だからです。

この本の作者である藤田令伊さんは大学教授や研究員の方ではありません。アートライターとして出版の編集の仕事を経験されてきた方です。ですから、膨大な知識量や専門的な理論を武器にしたりはしません。読み手を引き付けるための工夫や、解りやすい文体で、読者に現代アートへの関心を抱いてもらおうという謙虚さの感じられる一冊でした。

現代美術に関する入門書を読んでいてよく思うのは、入門書入門書と謳いながら、専門的すぎて難しいのが多すぎるという点です。

専門に特化していなくても、現代アートに対する多大な愛情(現代美術を崇拝するような語り口)の本が多いと感じます。現代アートと言えば、一見その価値がよくわからない作品が多いという印象がありますよね。そして、その率直な疑問を口に出せない閉塞感が、人々の足を現代アートから遠ざけてしまうのだと思います。しかしこの本は、このような現代美術に対するもやもやを解消しようと尽力しながら、軽やかに読者を現代美術の入口へ導いてくれる一冊だと私は感じました。

・自分の感性に素直になることの大切さ

この本の特徴は、あるアーティストの作品写真などを例に挙げて「あなたはどう思いますか?」と問いを投げかけてくれるところです。例えば「あなたはピカソの『アヴィニョンの娘たち』を美しいと思いますか?」というようにです。

「変な絵だな」「何がすごいんだこれ」「セクシーでむらむらするな」「素晴らしい!」と何を思っても、思わなくても、そこに間違いはありません。それこそが現代美術の面白さなのだという立場を最後まで貫いてくださいます。また、その絵に関する意味や美術史における位置づけなども、とてもわかりやすく簡単に解説してくださいます。

ピカソの絵に対して「この作品、子どもの落書きのようですね」という感想をいうことができない。意味深な顔をして、じっとそれを見つめていなくてはならない。そんな圧迫感から、私たちの感性を開放し、もっと心を開いて提示された作品と向かい合うことで、別の関係性を築いてみてください、というような著者の声が聞こえてきそうな一冊でした。

・アンドレ・セラーノ『ピス・クライスト』

本書で紹介されていた作品のほとんどは知っていたのですが、私はアンドレ・セラーノの『ピス・クライスト』という作品を知りませんでした。ほう、なんだかとても綺麗だなと惚れ惚れしたのですが、実は…。

アーティスト本人の××っこの中に、キリストをぶち込んだ作品なんです。よく見れば、タイトルからもわかる種明かしなのですが、かなり奇天烈なコンセプトでつくられた作品で驚きました。さすが、何でもありな現代アートです。他にも、マティス、ピカソ、カンディスキー、キルヒナー、デュシャン、モンドリアン、マグリット、ロスコ、ウォーホール、セラあたりを学ぶ上で、簡単に概要が知れる入門書だと感じました。現代美術は気になるけど、専門家のわけわからない理論や、固有名詞ばかりの教科書的な本は読みたくありませんという方は、まず最初に手に取るべき一冊かと思います。ささっと読めますので、時間つぶしにも最適でした。

3、解読・西洋の美術―視覚とその時代

美術史の入門書の中でも読んだ中で、今のところ一押しの一冊です。

原始時代から新古典主義までの西洋芸術史について解説してくれます。この本の素晴らしいところは、ただ作品や作家の名前や年号を列挙するだけでなく、各々時代の特徴や美術の形式の流れについて、とてもわかりやすく説得力のある言葉で書き記してくださっているところです。はじめて芸術史を暗記ではなく”理解している”という感覚を味わうことができました。

特に力を入れられているのは、北方ルネサンスの解説です。

北方ルネサンスとは?

*特徴:ゲルマン系、内向的、緻密画、写本装飾、油絵の発明、風景画、静物描写

*代表画家:・デューラー、ヤン・ファン・アイク、フランドル

イタリアにあったルネサンスが華やかで開花のイメージをもつならば、北方は中世の美術がもっていた特徴が円熟したというイメージでとらえることができます。ルネサンスと違い、人間ではなく自然に対して目覚めたのが、この地方のルネサンスの特徴です。この二つを対立図式で考えると分かりやすいのですが、例えば、イタリアではフレスコ画は絵の中心となりました。しかし、北方は冷たく湿った土地ですのでフレスコ画は発展せず、代わりにステンドグラスが好まれました。そして、聖書をはじめとした写本装飾というジャンルに活路を見出していきます。更にその後、ネーデルラントで油絵が開発されることで、北方ルネサンスは、イタリアのルネサンスに近づく影響力を持つようになりました。

美術史家のホイジンガによると、ネーデルラントの特徴は、以下のものと語られています。第一に「写実主義」です。見えるものをそのまま映したいという欲望が感じられます。第二に「細部主義」です。見えるものを見えるままに移したいという傾向が見られます。だからこそ、とても細密で、細部の省略が少ないという特徴をなしました。第三に「生活の芸術」というスタンスです。宗教画や歴史画ではなく、生活の何気ない一コマがリアルに表現されています。四番目に「死のイメージ」です。14,5世紀は死のイメージが重くのしかかっていた時代で、合言葉のように「メメント・モリ」が叫ばれていました。しかし、”死”は、誰にでも平等に訪れるという意味で、貧者の味方でもありました。第五に「象徴主義」です。絵の中に描かれたものをシンボルとみなし、意味を読み取れるという特徴があります。上の絵では、寄り添う犬の姿に配偶者への”忠誠”が読み取れます。

 この本についてはまた別に読書録を作りたいと思い続け、時が経ってしまいました。著者である神原さんの他の著作も読んでみたいと思い、芸術史ではなく”美学”を集中して学びたいという気持ちも強めることができました。

 その他、メモ書き程度に

以上、お勧めの読みやすい美術史入門書でした。以下は、読了したもののあまり心を打たれなかった本の記録をメモ書き程度に留めておきます。

非常に手に取りやすい一冊でした。人間の様々な欲望という視点から多種多様に美術について語っていく本です。全体的な美術史を俯瞰するにはやや不適切な本かもしれませんが、美術史のエッセンスを手軽に味わうという意味では成功していると思います。オールカラーなので、図版も美しく、かつ新書なので軽い点も魅力です。

*メモ書き

・モーニングピクチャー:アメリカで19世紀に流行ったなくなった子供を偲ぶ絵)

・自画像を文学的な自伝を、私小説のように解釈してしまうことへの危険性について(造形芸術はあくまで様式の展開や類似作品との関連の中から捉える必要性がある)

・アール・ブリュット:二十世紀にフランスの画ジャン・デュビュッフェが提唱。知的障碍者や犯罪者、未開人や児童などの正規の美術教育を受けていない人々が、自分自身のためだけに書いた絵画を指す。

・ピカソがベラスケスの名画『ラス・メニーナス』を題材にした絵

 ・イコノクラスム:人為的に芸術作品や記念物を破壊する行為。または八世紀にイコン(聖像)を禁止するためにビザンツ帝国の皇帝レオン皇帝が発した法律のこと。

 

これは、邦訳本。洞窟壁画から現代アートまでの流れを概観できる一冊。著者がイギリス人ということで、途中で挟まれる辛口コメントがなかなか辛辣。例えば、モンドリアンの絵に対して「三角定規と絵具とマスキング・テープあれば私でも書ける」や、ロスコの絵に対して「ものすごく絵を売るのがうまかったか、私の頭の程度を超えた深い意味がその絵に隠されているかどっちかだ」など。一般的に評価の低いエジプト壁画、中世芸術、現代美術には一切擁護していません。

美術に関する本は、特に著者のスタンスが明確に表れると感じました。前述した『欲望の美術史』の宮下さんは、DIC川村美術館のロスコルームには何時間も座っている鑑賞者が涙を流すところを見たといいます。そして「真の芸術はすべからく宗教的であり、美術と宗教は実は同じであるということをこれほど感じさせてくれる空間はほかにない」と断言しています。芸術の価値や評価をめぐる問題は、本当に議論の尽きることがなく、正誤がないと思います。偉い批評家が全否定したものを、自分が否定する必要などありません。その逆もまた然りです。

・本書で言及されていたホイジンガの『中世の秋』も気になる一冊。

 

次は、現代アートを市場との結びつきから紹介した本になっています。

ピンとくるものが何もなかったです。教科書的で、知識がたくさん詰まっているイメージです。さらっとは読みにくい一冊でした。

主に紹介されているアーティストは、お馴染みの奈良美智、杉本博司、草間彌生、村上隆の四人です。マーケットの話となると、関心が薄れてしまうのが、普段アートとは接点のない世界に属する庶民の弱みでしょうか。挿絵が挟まれて、紹介されていたアーティストは以下になります。

  • クリスチャン・ホルスタッド
  • 榎本耕一
  • 東義考
  • 松原壮志朗
  • 福井篤
  • 塚田守
  • 木村有紀
  • ジョシュ・スミス
  • ジェフ・クーンズ
  • ジャン=ミシェル・バスキア
  • 三宅信太郎
  • 泉太郎
  • 金氏徹平
  • 鬼頭健吾
  • 田中功起
  • 束芋

現代アートはたくさんアーティストがいて、追うのが大変そうです。この本は、他の本に比べると作品の良さを語るような踏み込んだ言説に乏しく、個人的にはあまり関心の高まる本ではありませんでした。

次は、入門の入門という割には、専門的な一冊でした。

紹介されていたアーティストで気になったのは以下の通りです。

  • 小山登美夫ギャラリーhttp://www.tomiokoyamagallery.com/ja/
  • アニメ「サウスパーク」
  • 村上隆
  • 奈良美智
  • 赤瀬川原平
  • 駒形克哉
  • 小林考亘
  • マウリツィオ・カテラン
  • トレシー・エミン
  • ジェーン&ルイーズ

最後にお勧め美術館なども並べてありました。

この作品を見るだけでも価値がある美術館・海外編
  1. ソウル国立現代美術館(*ナムジュン・パイク「The More The Better」)
  2. ディアアートセンター/ NY (*ウォルター・デ・マリア「The Broken Kilometers」)
  3. ルイジアナ美術館/ コペンハーゲン・デンマーク(*アンセルム・キーファー)
  4. セントポール寺院/ ロンドン(*ウィリアム・ホルマン・ハント「世界の光」)
  5. ピカソ美術館
国内編
  1. 直島コンテンポラリーミュージアム
  2. 豊田市美術館
  3. 金沢21世紀美術館
  4. 霧島アートの森
建物としての魅力がある美術館・海外編
  1. バルセロナ現代美術館/ リチャード・マイヤー
  2. フランクフルト近代美術館/ ハンス・ホライン
  3. ジューイッシュ博物館(ベルリン)/ ダニエル・リーベスキント
  4. アンディ・ウォーホール美術館(ピッツバーグ)/ リチャード・グルックマン
  5. フィンランド現代美術館(ヘルシンキ)/ スティーヴン・ホール
  6. フランソワ・ピノーコレクションの現代美術館/ 安藤忠雄
国内編
  1. 豊田市現代美術館/ 谷口吉生
  2. 国際芸術センター青森/ 安藤忠雄
  3. 奈義町現代美術館(岡山)/ 磯崎新
  4. 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川)/ 谷口吉生
役立つサイト
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  • 宮島達男
  • 森村泰昌
  • 椿昇
  • 柳幸典
  • 土屋公雄
  • 川俣正

 今まで読んだ本と少し毛色が異なる本も読んでみました。

 

アートに関する本は、やはり著者の経歴や立場によって、その内容は大きく変化します。この方はこってこての知識人(しかも40年代生まれ)ですので、デジタルアートに対する批判的立場を明確に持っておりました。いわゆるオリジナリティの追及を重視するという保守的な見地から筆を執っています。個人的には、現代アートに首をかしげる気持ちもわかる一方、唯一無二の個性と感性に訴える作家性、というような議論もナイーヴだと感じてしまいます。

*まとめ

美術について知りたいという気持ちから、この頃、読みやすそうな本を手あたり次第とっていました。しかし逆説的に一番、感じたことは、場に赴くことの大切さです。美術館に足を運び、肌身で作品を感じるという経験を増やしていきたいと純粋に思いました。

それから日本の美術界が抱える諸問題についても、なんとなく見えてくるものがありました。多くの本から、日本の美術館は固いイメージが強すぎて、気軽な美術鑑賞が許されない環境にあり、そのために現代美術が誤解されているという主張が読み取れました。前回紹介した蓑豊さんの本にもありましたが、美術館をもっと人々に開いた場所にすること、子供から大人まで全身の感性を使って楽しめる場にしていくことは大切だと思います。

また世界史や西洋思想ばかりに捕らわれるのではなく、第一線で活躍されている村上隆さんや奈良美智さんのように、受け身に西洋の流れを取り入れるのではなく、日本の古来の美術を理解し、昇華する形で作品を創造する日本人が求められているような気がしました。美術を通し、自国のことをよりよく知る機会を得られたら、と当時感じた記憶があります。最近、美術に関する本は読んでいませんが、近頃美術館によく足を運ぶので、何か面白い本があればまた紹介できたらと思います。

kinako18.hatenadiary.com