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東村アキコ『偽装不倫』にみる婚活の既視感、違和感、けれども罪悪感

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【感想・レビュー】東村アキコ『偽装不倫』が面白い

気づいたらスマホを開き、漫画を読んでいる。

20代の習慣は、30代になると人格になる、というような名言がどこかに転がっていた記憶があるが、なかなかに止められない深夜のLINE漫画講読。

最近、更新が楽しみな漫画がこちら。

東村アキコ先生の『偽装不倫』という作品である。

偽装不倫 1 (BUNSHUN COMICS×YLAB)

偽装不倫 1 (BUNSHUN COMICS×YLAB)

 

『偽装不倫』というなんだかおっかないタイトルに、あらまたホリディにラブしちゃったり、あなたがしてくれなくてもいいわよ、あなたのことはそれほどでもないのよ云云かんぬん今を時めく不倫漫画なのかしらと思いきや、これがなかなかにただの純愛漫画なのだから、面白い。

お決まり主役、東村アキコさんの漫画にご定番のこじらせ女(30)。

『タラレバ』の主人公三人もなかなかに見てられない、あちゃぁと言わんばかりのこじらせトリオだが『偽装不倫』の彼女もまぁなかなかにやってくれる。

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それでいて、どうしようもない既視感のオンパレード。

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そうだ、その通りだ、東村先生なんで私の日常を知ってるんだと。

挙句の果てには、一人旅、もはや我がライフワークである。

だが、そんな彼女は飛行機の中で、姉に借りたコートのポケットから結婚指輪を偶然にも発見。

そしてそれを機内でうっかり落としてしまうのだ。

勿論、拾ってくれたのは、お決まりのイケメン王子様。

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漫画の中なら、どんな女性も救われる。

良かった、ここでひとまず安心である。

しかし

「どちらの指にはめますか?」

と聞かれてとっさに答える

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のせいで、彼女の幸せは遠ざかるのだ。

(いやある意味で近づいたともいえるのか)

しかしこれ、わかる。

超わかる。

なんでだろう、でも自分だったら同じこと答えちゃうなと思わせる。

と咄嗟に答えてしまう、そこにある薄暗い感情の正体はなんだ?

さらに続くシーンがこれだ。

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うわ、何これ。

超既視感。

このシーンを読んだときの私

「あぁぁぁ~わかるわよ~~~」

まるで近所のおばさんのような相槌打ちながら、主人公に同調してた。

そう、そうなんだよ。

というのも以前、私も人生初の婚活パーティーとやらに出かけた。

プロフィールカードのようなものを書いて、一人一人に手渡しながら、話すのだ。

名前

出身地

仕事

趣味

相手の言葉にうんうんと頷き、口の端を釣り上げて、目を細めて、言われるがままに連絡先を交換して。

次の瞬間には、また別の誰かと同じようなやり取りを繰り返す。

反復。

その中で、確かに聞いたはずの名前、さっきまで会話していた男性の顔。

そしてそこに紐づけられた情報が、するりと私の脳裏から消え失せる。

一体私は誰と会話をしているんだろう。

目の前のその人の出身地は、前の前に会話をした男性と同じだ。

そんなことを考えながら、口が少しずつ乾いていくのを感じるけれど、目の前の紙コップにはもう水は残っていない。

別の男性と会話をしているはずなのに、皆のっぺらぼうのように見える違和感。

この違和感の正体は、何だろう。

ほら、パーティーだ、目の前に異性は山のようにいる。

きっと素敵な人もいるはずだ。

性格が合う人、もっと話せば馬の合う人だって、たくさんいる、はず、なのに。

感じる違和感の正体を、私はこの漫画に見て取った。

婚活の違和感、それはハプニングの欠如なのだ。

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食パンを加えた美少女と曲がり角でぶつかったり、痴漢にあってるところをヒーローのように助けたり、すっと図書館で伸ばした本の先で手が触れて顔を見合わせたり、そんなハプニング。

そんなことあり得ないって思いながら、きっと誰もが願っている決定打。

「この人だよ」と背中を押してくれるロマンスの神様の一声。

「運命の人」だと安心してラベリングできるハプニングを期待してるのだ。

だから、この漫画の主人公も、指輪を落とさなければならなかった。

そして彼が、それを拾わなければならなかった。

運命の二人を結びつけるハプニング。

それが決定的に欠けている、婚活のために催されたパーティーには。

夢見がちな私たち。

ハプニングが無ければ、恋は、始まらないなんて、一体いつまでほざいてるつもりなんだ。

そう、だから、圧倒的な罪悪感なのだ。

漫画の中の世界に存在する、主人公のために用意された運命を、いつか私にも、いやそんなことはないってわかってると否定しながら、それでもどこかで夢見て、苛まれる。

罪悪。

この漫画の面白いところは、主人公が必要のない罪悪感に苛まれている点だ。

彼女は既婚者ではない。

だから独身です、と言ってしまえば、いいだけなのだ。

でも、そうすることに罪悪感を覚えてしまう状況へ、自分自身を追い込む方向へと、逃げるように進んでいく。

それは何故なんだろう。

一人でラーメンを食べて、一人で焼き肉を食べて、一人でカラオケをする。

一人で旅行した先で、彼女は運命の人と出会う。

なのに、何かの罪を弁解するように、既婚者だと嘘をついてしまう。

これは一体、なんの罪なのだろう。

彼女に呪縛のように付きまとうソレを多分、多くの女性が知っている。

知っているけれど、言葉にできないそれに、突き動かされるように、私たちはまた見知らむ男性たちが並んだパーティーに足を運んで

既視感、違和感、けれども罪悪感。

『偽装不倫』それは

結婚していると嘘を吐く女と、それを承知で女を口説こうとする男の話。

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互いの秘密を「不倫」という陳腐なもので演出なんぞしない。

それでも「偽装不倫」というラベルを物語に貼り、ストーリに嘘のすれ違いというロマンスを織り混ぜる東村アキコ先生の演出の手練れさに感心しながら

(面白い漫画だな)

とスマホの画面をスクロールした後で。

今日もまた一人夜のまにまに、こんなことばかり呟いて、と変な罪の意識に苛まれるのだった。

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